最近はテレビの健康情報番組でも慢性痛の原因にイエローフラッグ:心理社会的要因が取り上げられるようになってきている。確かに痛みの慢性化に関係することは多くの研究報告でも述べられている。しかしあくまでイエローフラッグは痛みの増強や長期化に関係しているが、それだけが痛みを引き起こすことはほとんどないようである。それにもかかわらず、器質的・構造的異常が画像所見で認められなかったらすぐに原因はイエローフラッグであるという錯覚が生じているように感じている。
臨床で問診をしていると背景にあるイエローフラッグは一つや二つ必ずある。社会生活を送っていてイエローフラッグのない人はいないのではないだろうか?やはり病態をしっかりと評価・治療できないために、言い訳のように「原因がイエローフラッグである」と決めつける傾向を危惧する。
心理面における不安、抑うつ、破局化などを調べる質問紙法も色々開発されているが、その点数が心因性疼痛の判断基準にはならない。あくまで現在の症状を修飾する因子であるというだけである。
Waddellは腰痛の生物、心理、社会的モデルに基づく治療方法をまとめたテキスト「THE BACK PAIN REVOLUTION」で疾病行動という概念を提案している。疾病行動とは人々が病気であるということを表現、あるいは伝達するために発する言葉や行動を指す。
疾病行動 illness behavior
非器質的もしくは行動的徴候には注意をそらせたSLR検査などがある。「SLRは30°しか上がらないのに、長坐位がとれる」というように可動域と動作との間に矛盾が存在する検査を取り上げている。その他にも解剖学、生理学、運動学に合致しない徴候を紹介している。
しかしそういった徴候があったり、その他の疾病行動があってもすぐ心因性と決めつけてはいけないと警告もしている。
重要な警告 important caveats
疾病行動と心理的要因
【参考・引用文献】
土井永史 編著:心因性疼痛の診断と治療,真興交易,2003
Waddell G: The back pain revolution 2’nd ed, Churchill Livingstone, 2004
Main CJ, Waddell G: Behavioral Responses to Examination, Spine 23:2367-71, 1998